アスタルテ書房へ


午後、閉店セールをやっているアスタルテ書房へ行く。存在自体が幻想文学のようなその書店には、高校生の頃から憧れていたのだが、実際に店に入る勇気を持てたのは、ずいぶん大人になってからだった。行くたびに、店内の濃密な空気に少し緊張し、そこにずらりと並んでいる本がすごく面白そうだとは思いつつ、自分にはまだ早いような気がして、安い文庫本だけを買うことが多かった。いつか憧れに追いついて、棚に並んでいる重厚な本も買えるようになろう。呑気にそんなことを考えていたら、店主がお亡くなりになって、書店は閉められることになった。

今日も少し緊張しつつ店に入り、1時間近くかけて見て回るうちに、自分が何が欲しかったのかを見失う。難しく考えず、いま読みたい本を素直に選ぶことにして、結果、ここでなくても手に入りそうな本ばかりを買った。ここでしか買えないような本は、やっぱりまだ自分の手に余るように思えたのだった。

次に来る時はどうだろう。憧れに追いつきたい一心で、聞いたことのない本に手を出すかもしれない。とはいえ、店がいつまであるかは分からない。これからいろいろな人がここに来て、それぞれが選んだ本を買い、それぞれの場所に持ち帰る。本の数が減っていくにつれ、濃密だった店の空気は、少しずつ糸玉がほぐれるように、小さく、淡くなっていく。そしていつしかすべての糸はほぐれ、気が付くと、アスタルテ書房は消えているのだろう。帰り道にそんなことを思う。本当に、幻想文学のような。

東京には緑が多い


東京は思っている以上に緑が多く、人も多いが、いないところには全然いない。何回行っても不思議に満ち溢れていて、キラキラしている。