■ イギリスにPULP(パルプ)というバンドがいる。90年代のブリットポップ全盛期に人気を博したらしい。「らしい」というのは、僕はほとんど知らないバンドだったからだ。当時の日本人にとってもそれは同じらしく、オアシス、ブラーは知っていても、パルプは知らない、という人が多かったように思う。
■ そんなパルプが、ロッキンオンソニックというイベントでヘッドライナーとして来日した。大丈夫かな、と勝手に心配していたわけだが、それなりにお客も入り、盛り上がっていたという。それで思い出したのは彼らのヒット曲「Common People」の歌詞だ。この曲はイギリスでブリットポップ No.1 に選ばれたらしい。
ボーカルがアートスクールで知り合った女性は上流階級の出身で、普通のことがしたいのだという。あなたのような普通の人と付き合いたい。そんな彼女に、困惑しながら彼はつぶやく。”普通” にはなれないさ。曲の終盤になると、彼は何度も何度もこの “普通” という言葉を叫び続ける。
あんたは “普通” の人のようにはなれやしないさ
“普通” の人がするようなこともできやしない
“普通” の人のように失敗を経験することもない
自分の生活が崩れていく様を見ることもない
■ この、イギリスの階層社会の皮肉が、当時の僕にはピンとこなかった。労働者階級の叫びであるオアシス、中産階級のひねくれであるブラーまでは分かっても、パルプの徹底した諦めと冷笑は、当時の日本人には早すぎたのではないか。
ロッキンオンソニックの客層は40~50代の男性が多かったという。日本が不景気になって30年、ようやくパルプの叫びが届き始めた、ということだろうか。我々が30年分、歳を取っただけかもしれない。