夜の奈良/大古事記展


奈良県立美術館へ「大古事記展」を見に行く。残念ながらあまり楽しめなかったのだが、それは自分の知識と経験が不足していたのが大きいと思う。陳列されている展示物から古事記の世界を想像したり、その雰囲気に浸ったりする力が、まだ自分には備わっていなかったのだ。嬉しそうに展示物に見入る年配のお客さんを羨ましく思いながら、美術館を後にする。

外はもう真っ暗だったが、このまま帰るのも惜しい気がして、あたりを散策することにした。地図を見て、すぐに行けそうな猿沢池へ向かう。大きくて綺麗な池だな、と周辺を歩き、左手に見えた階段を登っていくと五重の塔が見えた。それが興福寺だった。
我ながら、こんな雑な観光があるものかと思う。まったく奈良のことを知らないのだ。真っ暗な中ライトアップされた五重の塔はとても綺麗で、しばらく見入る。あたりには誰もいない。風が冷たくて寒い。塔の裏手にある雑木林がざわざわと鳴っている。自分が「大古事記展」に求めていたものがここにあるような気がして、境内を彷徨く。

同じ古都でありながら、京都と奈良では雰囲気がずいぶん違う。京都は平安京のあとも長いあいだ都として栄えたためか、積み重なった情報が多く、古代の姿が見えにくい。奈良は、もっと現代と古代が近いように思える。「京都以前」にふわっと戻ったような、そんな気持ちでうっとりしながら歩いていたら、大量の地蔵に遭遇してぎょっとする。勝手に古代に思いを馳せていたことを地蔵に笑われたような気分になったが、それもまた良し。